Column 補償コラム

【第1回】判例研究会 『登記簿上の建物所有名義人と建物収去義務』

最終更新日:2026.01.27

事実

土地を取得したXは、当該土地上にYが権限なしに建物を建築し所有した。

そこで、Xは、本件土地をYが不法占拠しているとの理由から、Yに対してこの建物の収去・土地の明け渡しを求めると同時に、損害賠償の請求を求めた。

この建物は未登記であったため、Xによる処分禁止の仮処分申請に基づき、裁判所の嘱託によるYのための所有権保存登記がなされた。

しかし、これより先に、Yは当該建物を未登記のままで、訴外Aに譲渡していた。

以上から、Xは、1審・2審ともに敗訴した。

そこで、Xは上告したが、これも棄却された。

判旨

 「…右のような土地の所有権にもとづく物上請求権の訴訟においては、現実に家屋を所有することによって現実にその土地を占拠して土地の所有権を侵害しているものを被告としなければならないのである。しかるに、本件においてはYは、かつて右家屋の所有者ではあったが、Xが本件土地を買い取る以前に(もとより、Xのした所論仮処分より前に)右家屋を未登記のまま第三者に譲渡し現在は家屋の所有者でないことは原判決の確定するところである。すなわちYは現在においては右家屋に対しては何等管理処分等の権限もなければ、事実上、これを支配しているのでもなく、また、登記ある地上家屋の所有者というにもあたらない(現在登記簿上本件家屋について、Y名義の保存登記が存在するけれども、これはYが本件家屋を未登記のまま譲渡した後に、Xの仮処分申請にもとづいて、裁判所の嘱託によって為されたものであって、Yの関知するところでないことは原判決の確定するところである)。従って、Yは現実にXの土地を占拠してXの土地の所有権を侵害しているものということはできないのであって、かかるYに対して、物上請求権を行使して地上建物の収去を求めることば許されないものと解すべきであり(昭和一三年、第一二七一号同年一二月二日言渡大審院判決参照)、また、YはXが本件土地の所有権を取得する以前に右家屋を未登記のまま譲渡したこと前叙のごとくであるから、Xの所有権の侵害を原因とする本訴損害賠償の請求も理由のないもの」である(小谷・河村両裁判官の少数意見あり。後述)。

研究

 物権が物に対する直接的排他的な支配権であるから、他人がそれを侵害する場合には、物権的請求権(物上請求権)が認められる。

この請求権は、物権に随伴し、物権が移転するとこの請求権もこれに伴って移転する。

民法上は、この請求権を認める直接的な規定は存しないが、これに類似した民法199条以下の占有訴権の規定が存する。

仮の権利である単なる事実上の支配に基づいて成立する占有権(民法180条)にも、返還請求権(民法200条)、妨害排除請求権(民法198条)、妨害予防請求権(民法199条)が認められている。

このような仮の権利について上記権利が認められている以上、それより強固な権利である物権にも上記の請求権が認められることは明らかであろう。

なお、我が国民法の母法であるドイツ民法では、物権的請求権についての規定が置かれている。

本件においては、建物の物権変動自体を争っているのではなく、建物よる土地の不法占拠を問題としているに過ぎない。この点から、本件を登記とは無関係であると解する本判決は、結果的に妥当と解される。

一方、本件判例の立場を採用すると、Y・A間の物権変動を知らないXに多大な不利益をもたらすことになる。

そこで、Yは、建物所有権を有しないから、建物を収去する権能を有せず、したがって収去義務を負えないのではないかと解する説もある(椿木寿夫・不法占拠・総合判例叢書民法(25)49頁)。

一般に、物権的請求権の相手方は、現に物を所持する者であると解されており、この点から、本件においても、XはAに明け渡し請求をすべきであろう。

このような考え方は、Xに不利益を与えることになるということから、妥当でないとの説も少なくはない。しかし、XはYに対して損害賠償請求権が認められてよいものと思われ、Y・A間の売買については、XはYからAの所在地等を確認できるであろうから、特に問題としなくともよさそうに思われる。

以上

(最高裁昭和35年6月17日民集14巻8号1396頁)

判例研究会の皆様

【第1回】判例研究会 『登記簿上の建物所有名義人と建物収去義務』

★竹内 俊雄 (一般社団法人公共用地サポートセンター、弁護士、法学博士)

 水谷 勝彦 (一般社団法人近畿建設協会)

 須崎 正  (株式会社 八州)

 上村 雅人 (独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)

 登坂 健大 (独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)

 佐藤 匠  (独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)

 

★…執筆者