Column 補償コラム

【第4回】判例研究 『道路の一部高架化に伴う交通量の減少によってドライブインの営業が成り立たなくなり、建物を廃棄せざるを得なくなったとしても、反射的な営業上の利益の損失にすぎず、補償の対象とはならないとされた事例』

最終更新日:2026.04.27

事実

(一) 建設大臣は、交差点の渋滞を解消するために、国道の下り2車線のうち中央寄りの車線を高架にして立体交差させる工事を行った(外側の車線は高架にされず、従来どおり平面交差している。以下、高架にされた車線部分を「高架部分」といい、高架にされなかった部分を「地上部分」という。)。建設大臣は、本件立体化工事のため、X所有のドライブイン敷地の一部を、地上部分の歩道とする目的で、A県収用委員会に権利取得裁決の申請をし、これを得た。

 

(二) Xは、本件収用についての権利義務の帰属主体であるY(国)に対し、

①  本件立体化工事によって、ほとんどの車が高架部分を通行するようになり、ドライブインに面する地上部分を通行する車の数が減少するため、顧客も減少し、営業が成り立たなくなるから、ドライブイン建物を廃棄せざるを得なくなるのに、本件裁決では、その部分の補償が認められていない。

② 同様の理由によって、ドライブイン敷地のうち収用されなかった部分(以下「本件残地」という。)が沿道サービス業に不適となり、地価が低下するのに、本件裁決では、その部分の補償が認められていない。として、本件建物価格及び地価低下額相当の損失補償の増額変更と、増額分の支払を請求する訴えを提起した。

 

(三) これに対し、Yは

① Xが補償を求めている損失は、いずれも本件収用によって生ずる収用損失ではなく、本件立体化工事という事業によって、収用されなかった近傍の土地にも同様に生ずる事業損失であるが、事業損失は土地収用法上の補償対象とはならない。

② Xが補償を求めている損失は、いずれも交通量の変化によるものであって、従前Xが得ていた利益は、顧客となる一般人の道路の自由使用によって得ていた利益であり、このような第三者の国道の自由使用によって享受する利益は反射的利益にすぎず、補償の対象とはならない。と主張して争った。

 

(四)本判決は、以下のとおり判示して、Xの請求を棄却した。

判旨

(一)土地収用とこれに引き続く公共事業の施行に伴って残地に生ずる損失は、土地の収用それ自体によって直接生ずる収用損失と、土地の収用それ自体ではなく、収用された土地の上でその目的たる公共事業が行われたことによって初めて生ずる事業損失に二分できる。

 Xが主張する損失は、いずれも事業損失であるが、およそ土地収用は特定の公共事業のために行われるのであって、両者は密接不可分の関係にあるから、事業損失も土地収用法74条の「土地の一部を収用し、使用することに因って」生じた損失ということができ、事業損失を一般的に補償の対象から外すのは相当ではない。

 

(二)従来、Xがドライブインを経営できたのは、Yが国道を公衆の用に供し、多数の運転者がこれを利用していたことの反射的効果であり、本件高架化工事によってドライブインに来る自動車の数が減ったとしても、これは運転者の多くが交差点の渋滞を避けるため高架部分を通行する結果にすぎず、このような反射的な営業上の利益の損失は補償の対象とならないから、このような原因で本件建物を廃棄せざるを得なくなったとしても、補償を求めることはできない。

 

(三)本件残地は、本件立体化工事によって沿道サービス業用地としての利用方法にある程度の制約を受けたが、反面、交差点の渋滞解消によって地域全体として土地の用途が拡大、充実した。

 これら両面の本件残地価格に及ぼす影響は明確に区別できないので、両者を総合的に勘案すると、本件残地の価格が低下したことを認めるに足りる証拠はない。

研究

「事業損失の補償」

(1)事業損失について

 事業損失とは、公共事業の施行により工事施工区域外に生ずる、騒音、振動、日照阻害等による不利益、損失、損害のことをいい、公共事業に必要な土地等を取得し、または使用することに伴い直接的に生じる損失である収用補償とは区別されている。

 

 公共用地の取得に伴う損失補償の基準を定めた「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(昭和37年6月閣議決定)」においては、事業損失についての規定はない。これは、「公共用地の取得に伴う損失の補償を円滑かつ適正に行うための措置に関する答申(昭和37年3月20日答申)」において、「しばしば問題とされる事業施行中又は事業施行後における日陰、臭気、騒音等により生ずる不利益、損失、損害等については、これらが社会生活上受忍すべき範囲を超えるものである場合には、別途損害賠償の請求が認められることもあるだろうが、損失補償の項目として取り上げるべきものではない」とされたためである。しかし、これらの損害等が社会生活上受忍すべき範囲を超える場合は損害賠償の請求が認められることもあるため、「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱の施行について(昭和37年6月閣議決定)」においては「これらの損害等の発生が確実に予見されるような場合には、あらかじめこれらについて賠償することは差し支えないもの」としている。

 

(2)民法第416条(損害賠償の範囲)と事業損失補償

 民法第416条第2項は、「特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる」と規定する。つまり、特別な損害であっても、その予見可能性が明確な場合は、債権者はその損害についての賠償を請求することができるとの規定である。

 

 民法第416条第2項のこの規定は債務の不履行に対する損害賠償についてのものではあるが、一般的に事業損失補償は損害賠償の性質を有するものと解釈されており、上記(1)で触れた「公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱の施行について(昭和37年6月閣議決定)」における事業損失補償に対する立場は民法第416条第2項に立脚しているとも考えられる。その予見可能性によって、損害が生ずることが明らかな場合は、債権者からの請求を待つまでもなく起業者が債権者(被補償者)に対して補償を行えるとの考え方である。

 

(3)事業損失補償の対象

 本件事業の施行によって道路が高架化されることにより、X所有地の接面道路が側道の一部となり、車両の大半が高架化された本線を通行することに(2)なった。これによって当該道路における渋滞は大幅に緩和されることになったが、反面この道路の通行者に対して営業を行ってきたXにおいては道路の形状が変わることによって通行車両が激減し、その営業に重大な支障を来した。Yの事業により接面道路の通行車両が減少することは予見可能である(むしろ渋滞の解消を意図した事業であるため、このことを目的としているともいえる)し、通行車両の減少によってXの営業に支障が生じることは十分に予見可能である。

 

 本件バイパス事業が沿道サービスとしてのドライブイン事業に支障を来すことは明確に予見可能性があるといえる。

 これを民法第416条第2項の規定に照らし合わせてみると、XはYに対して、その損害の賠償を請求することができることになるのではないだろうか。

 

(4)反射的利益

 しかしながら、本判決においては、本件事業による高架化の結果、ドライブインの建物を廃棄せざるを得なくなるとするXの主張に対して、運転者の国道利用による反射的な効果(つまり反射的利益)を理由に補償が認められなかった。各地で類似の事案が散見されるが、およそ道路の自由使用の結果としての反射的利益であるとして処理されている(補償されない)のではないかと思料される。

 

 では、反射的利益とはいかなるものであろうか。

 

 損失補償に関する規程上、反射的利益についてはその明確な規定はなく、その類型も定められていない状況である。単に「反射的利益」として「道路に接していた結果として」利益を受けられたのであると説明される。

 

 本件はバイパスを新設する場合における反射的利益の主張とは事情を異にし、道路改良事業によって一部収用の結果通行車両が減少するのであり(バイパス新設の場合は収用される土地はない)、収用を受けた者がこれによって生じた損失に対して補償を受ける権利を有すると考えるべきなのではないだろうか。また、長年この地において営業を行ってきた者の生活再建を促す観点からも認められて然るべきではないかと考える。

 

 ただし、現状としてはこのような事例においては「反射的利益」を理由にして補償が認められる状況にはない。

 

 実務に携わる者の一人として、今後反射的利益と称されるものの意義、類型、補償規定等を明確にし、然るべき補償を行うことによって、収用を受ける権利者の立場が保護されることが望ましいものと思われる。

執筆者

【第4回】判例研究 『道路の一部高架化に伴う交通量の減少によってドライブインの営業が成り立たなくなり、建物を廃棄せざるを得なくなったとしても、反射的な営業上の利益の損失にすぎず、補償の対象とはならないとされた事例』

 竹内 俊雄 (一般社団法人公共用地サポートセンター、弁護士、法学博士)

 水谷 勝彦 (一般社団法人近畿建設協会)

須崎 正  (株式会社 八州)

 上村 雅人 (独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)

 登坂 健大 (独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)

 佐藤 匠  (独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構)

 

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