【第7回】判例研究会 『成田空港用地内の空港会社と空港建設反対派の共有地について全面的価格賠償方式による共有物分割請求が認められた事例』
最終更新日:2026.07.27
事実
Xは、「成田空港」の設置・管理等を業とする法人であるところ、成田市内に共同で所有する本件土地(持分94%)に滑走路を建設しようとしているが、本件土地の共有者であるY (一坪地主)らが滑走路の建設に反対し、工事が進捗しないため、Yらに対し、全面的価格賠償の方式による共有物分割とこれを原因とする持分移転登記手続を求めた。
これに対し、Yらは、成田空港の建設ないし滑走路の建設自体憲法31条、29条に違反し、全面的価格賠償の方式による共有物の分割は憲法29条、民法258条に違反するなどと主張した。
本件の主要な争点は、
①本件訴訟提起が権利の濫用にあたるか、
②「土地をもつ会」は、組合か、
③前所有者と原告との間の各共有持ち分の売買契約は弁護士法第72条違反により無効となるか、
④原告に裁判上の共有物分割請求権があるか、
⑤全面的価格賠償の方式は共有物の分割方法として是認されるか、
⑥本件請求は全面的価格賠償方式による共有物分割請求の要件を具備しているか
であった。
判旨
判決は、
①Xの本件訴訟の提起は権利の濫用であるとのYらの主張は採用できない、
②民法上の組合財産に当たるとのYらの主張は採用できない、
③前所有者とXの間の各共有持ち分の売買契約が弁護士法72条違反により無効であるとしたYらの主張を採用できない、
④裁判上の共有物分割請求をするために当事者間に協議が調わないことが要件とされているが、共有物分割の協議ができないことが明らかな場合には、分割協議の申入れをしなくても、裁判上の分割請求をすることができる、
⑤全面的価格賠償の方式による共有物分割を認めることは、民法258条2項に違反するものではないし、民法の条項の解釈である以上、憲法41条に違反するものでもない、
⑥Yらの持分はXと比べてわずかなもので、いずれも空港用地に囲まれた土地であるから、
Yらが現物分割を受けても経済的、合理的な利用価値は乏しいこと、Xには空港を整備する必要性があり、合理的であること、賠償額は適正な評価に基づき算出され、Xには賠償金の支払能力が認められることなどからすれば、全面的価格賠償の方式による共有物分割が許される特段の事情があると認められると判断し、本訴請求を認容した。
研究
本件の主要な争点について、以下、争点ごとに考察していく。
① 本件訴訟提起が権利の濫用にあたるか
Yらは、Xの訴えが、当事者を困惑させることを目的とし、有形・無形の不利益・負担又は打撃を与えることを目的として提起されたもので、民事訴訟制度の趣旨に反するので、権利の濫用にあたると主張していた。また、成田空港建設事業における工事実施計画認可処分や、土地収用法に基づく事業認定処分の違法性について主張していた。
これに対して、Xは、空港の建設にあたり、土地の取得を求めたものであって、相手方当事者に対して、困惑を目的とし、有形・無形の不利益・負担を又は打撃を与えることを目的としたものではないと主張している。その手法として、土地の公的収用を求めたものではなく、民法に基づいて訴訟提起を行ったものであること、本件土地が新空港建設に不可欠な土地であり、空港建設の適法性を説明し、判決もそれを支持していた。
思うに、Xは公的な収用による土地の取得を行なおうとしたわけでもなく、あくまで、民法上の権利として共有物分割訴訟を提起したにすぎないので、これをYが権利濫用と反論するのであれば、相応の権利濫用の実態を示すべきであろうが、既に適法であると確定している空港建設の違法性を主張されていたにすぎないと考える。
仮定の話として、土地が空港建設事業用地範囲外で、空港建設に必要のない土地であったならば、Yらに対して有形・無形の不利益・負担又は打撃を与える目的と考える余地が生まれるため、権利濫用による無効との主張も成り立ちえたと考えられる。
いずれにしても、本争点における判決は、妥当であると考える。
② 「土地をもつ会」は組合か
Yらは、「土地をもつ会」は民法上の組合であり、組合財産であるところ、Xはこれを認識して買収したのであるから、Xの持ち分取得は無効であると主張している。
これに対して、Xは、「土地を持つ会」は、民法上の組合と言えず、本件各土地は、組合財産ではないと主張し、判決もそれを支持していた。
組合契約は、2人以上の各当事者が出資して共同の事業を営むことを約する契約である(§667)と規定されている。また、各組合員の出資その他の財産は総組合員の共有に属する(§668)とされている。なお、共有に属すると規定されていながら、理論的には合有による共同所有形態であると読める。なぜなら、組合の共同目的のために、持分の譲渡・分割の請求を制限しているから(§676)である。
「民法」(明治29年法律第89号)
(組合契約)
第六百六十七条 組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。
(組合財産の共有)
第六百六十八条 各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属する。
(組合員の持分の処分及び組合財産の分割)
第六百七十六条 組合員は、組合財産についてその持分を処分したときは、その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができない。
2 組合員は、組合財産である債権について、その持分についての権利を単独で行使することができない。
3 組合員は、清算前に組合財産の分割を求めることができない。
この組合の性質を踏まえて、「土地を持つ会」の実態を見ることにする。
「土地を持つ会」の会則には、会員は必要経費三〇〇円を負担すると定められ、会員である土地共有者が三〇〇円を出捐することとなっており、三〇〇円の出資だけにより会員となるとは規定されていない。三〇〇円の出捐は土地共有持分取得に必要な費用であり、組合として共同事業を営むための出資とまでは言えないものであると思慮する。
また、「土地を持つ会」は土地の共有者である会員をもって組織し、会員は必要経費三〇〇円を負担すると定めてられているところ、Yの戊は、土地の共有者となる前に入会し役員をしていたり、Yの丁は、共有登記名義人ではないが会員として扱われていたりと、会員資格のない者までも会員とする運営がなされている事実があった。
さらに、各共有持分については、空港建設に反対する者であれば、譲受け又は相続により承継することが認められていたが、民法上の組合では認められてない扱いである(§676、§679)。
「民法」(明治29年法律第89号)
第六百七十九条 前条の場合のほか、組合員は、次に掲げる事由によって脱退する。
一 死亡
二 破産手続開始の決定を受けたこと。
三 後見開始の審判を受けたこと。
四 除名
また、民法の規定する組合であれば、組合員が脱退すれば、組合は脱退組合員との間で財産関係の清算をしなければならず(§681)、脱退組合員に属していた合有持分は、残存組合員に配分されることになるはずであるが、会則にこれに関する規定はないし、実際の会員の意識でも認められなかった。
「民法」(明治29年法律第89号)
(脱退した組合員の持分の払戻し)
第六百八十一条 脱退した組合員と他の組合員との間の計算は、脱退の時における組合財産の状況に従ってしなければならない。
2 脱退した組合員の持分は、その出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができる。
3 脱退の時にまだ完了していない事項については、その完了後に計算をすることができる。
「土地を持つ会」の実態、土地提供者及び本件各共有名義人らの実際の意識には、民法の組合の規定を踏まえて制定された会則とは言えず、単に共有地の使用管理を目的とする旨を規定しており、民法の規定する組合であるとは言えず、Xの各土地の持分取得は、組合財産の取得であるから無効であるとの旨のYらの主張を退けた判決は妥当であると考える。
③ 前所有者と原告との間の各共有持分の売買契約は弁護士法72条違反により無効となるか
弁護士法72条は、非弁護士の法律事務の取扱等を禁止するものであると定められており、これに違反した法律行為は、民法90条に照らして、無効であると定めている。
「弁護士法」(昭和24年法律第205号)
(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
第七十二条 弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
「民法」(明治29年法律第89号)
(公序良俗)
第九十条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
Yは、各売買契約の代理人となった土地提供者の行為がこれに該当し、売買契約は無効であると主張している。
土地提供者は、自らが所有していた土地について、売買契約を代理していたのみであって、それ以外に土地について代理していた事実は認められていない。これをもって反復的又は反復継続の意思を持って行っていたとは言えない。
また、代理人は売買代金を受領しているが、売買契約の経緯を見ると、譲渡人となった共有者は、共有持分を取得する際、三〇〇円の経費負担をしたのみで、土地売買代金自体を支払ったわけではないため、実質的に共有持分を預かっていたにすぎないと考えられ、売買代金を受領した代理人は、本来、自らが取得すべき、土地売買代金を受領したにすぎず、委任者からの報酬と解すべき性格のものではない。
したがって、被告らの主張を退けた判決は妥当であると考える。
なお、私見であり、本判決の争点とはなっていないが、土地提供者が真の土地所有者であって、登記名義人たる共有者は、土地の所有権を自らが所有していないと認識している時点で、通謀虚偽表示(§94)が成立し、土地提供者から土地の共有者へ譲渡していた前段の土地取引そのものが無効であるのではないかと考えた。
そうであるならば、本件の代理人となった者は、実態は、真の土地所有者であり、土地所有者から当該土地を取得することに何の問題も生じないのではないかと考えた。
「民法」(明治29年法律第89号)
(虚偽表示)
第九十四条 相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
2 前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。
④ 原告に裁判上の共有物分割請求権があるか
Yらは、裁判上の共有物分割請求を行うには、共有物分割を希望する共有者から他の共有者に対して、共有物分割に対する協議の申し入れが最低限必要であるが、このような協議申し入れがなかったので、Xの裁判上の共有物分割を請求することができないと主張している。
Xは、Yらは成田空港建設を反対する立場にあり、譲渡の申し入れも分割協議も応じない状況であり、やむを得ず、分割協議の申し入れをすることなく、裁判上の分割請求をしたものであると主張し、判決もこれを支持している。
思うに、客観的な情勢として、明らかに分割協議が成立しない状況下で、分割協議の申し入れ行為を裁判上の分割請求を行う際の要件とすることは迂遠であり、判決は妥当であると考える。
⑤ 全面的価格賠償の方式は共有物の分割方法として是認されるか
Yらは、全面的価格賠償の方式による共有物分割の方法は、民法258条2項に定められていない新たに第三の方法として全面的価格賠償方式による分割方法を創設した最高裁平成8年10月31日判決(民集50巻9号2563頁、判例時報1592号51頁、以下「平成8年判決」という。)は、憲法に違反する等主張していた。
思うに、民法258条2項は、すべての場合に現物分割又は競売による分割に限定して、他の分割方法を一切否定した規定であると解することはできないし、Yらが主張している全面的価格賠償の方式が、法の予定していない全くの新たな第三の方法であるとまでは思えない。当該解釈を行った平成8年判決が違憲である旨の主張も、そもそも最高裁には、従前の判例を変更する権限があることからも妥当ではないと考える。
したがって、Yらの主張を退けた判決は妥当であると考える。
なお、令和5年4月1日施行の民法改正において、本判決当時にはなかった、全面的価格賠償方式による共有物の分割方法が条文(§258-2、§258-4)に明記されることとなったため、現在では、この論点は発生しないことになったと申し添えておく。
「民法」(明治29年法律第89号)
(裁判による共有物の分割) ※平成18年6月28日判決当時
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
(裁判による共有物の分割) ※令和5年4月1日改正後
第二百五十八条 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。
一 共有物の現物を分割する方法
二 共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法
3 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。
4 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。
⑥ 本件請求は全面的価格賠償方式による共有物分割請求の要件を具備しているか
平成8年判決は、共有物の分割において、共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、共有物を取得する者に支払能力があって、共有者問の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があるときは、全面的価格賠償の方法によることも許されるとしていた。
本件請求が、これに該当するかを考えると、本件各土地について、Yらの持ち分はXに比べてもわずかであり、いずれもX所有の空港用地に囲まれた土地であるから、Yらが現物分割を受けたとしてもその土地の利用価値は乏しい一方、Xは空港滑走路等の建設に必要としており、Xに取得させる方が合理的であり、相当と言える。
価格についても不動産鑑定士が鑑定して、適正な価格が算出されており、適正に評価されている。
支払能力についても、Xは、資本金一〇〇〇億円の株式会社であり、その規模からも充分に支払能力があると認められる。
以上から全面的価格賠償方式によった場合でも、当事者間の公平を害することはないとして、Yらに共有持分に応じた価格取得をさせるのが相当であるので、判決は妥当であると考える。
以上、①~⑥の争点について、判決に沿って、考察してみるも個々の争点において、判決は、妥当な結論であったと思われる。
なお、被告の立場であり、原告側の主張を退ければよい立場であるからこそ行えた、裁判上の主張ではあろうが、Yらの主張は、本件土地の所有は、組合財産であるとの主張と、登記名義人の所有物であることを前提として土地提供者らの行為が弁護士法72条違反であるとの主張は、土地所有者が異なる前提の主張となるため、矛盾するものであり、同時には成り立ちえないものであると考える。
