Column 補償コラム

【第9回】判例研究会 『譲渡担保物件の譲渡と譲受人の知情』

最終更新日:2026.09.10

事実

被控訴人X(原告)は自己所有の本件建物を抵当権者の申立により任意競売に付されることとなったが、本件建物が他人の手に渡るのを防ぐため、訴外Aに対しこれを競落するように依頼した。

 

この際に、X・A間では、Aが本件建物につき競買の申出をなし、競落して代金を支払ったときは、その所有権はXに帰属させる旨の合意がなされていた。Aは右約定に基づき、競買の申出をなして競落し、Xの調達した資金をもってその代金を支払った。

 

これによりXは引き続き本件建物の所有権を有していたが、昭和三五年九月一二日にXは控訴人Y2(被告)に対して、本件建物につき譲渡担保権を設定した。

 

同年 一二月Y2は控訴人Y1(被告)に対し本件建物につき譲渡担保権を設定し、同年一二月一九日にAよりY1に対して所有権移転登記がなされた。

 

その後、前記Y1の譲渡担保権は、昭和三六年一月に被担保債権の弁済により消滅した。

 

そこで、同年一月九日にY1よりY2に対して所有権移転登記がなされた。

 

昭和三八年二月六日に、Y1はY2から売買により本件建物の二分の一の共有持分についての所有権の一郁移転登記を受けた。

 

その後、昭和四六年一月一九日にY2の譲渡担保権は、被担保債権に対する有効な供託により消滅した。

 

そこで、XはY1・Y2に対して、その各自が有する本件建物の二分の一の共有持分権につき、真正な登記名義の回復を原因とする移転登記手続を求めたのが本件である。

判旨

 「右事実によれば、被控訴人Xは、控訴人Y2に対し、債務の本旨に従った弁済の提供をしたが、受領を拒まれたものとして、そのなした弁済供託は有効と認めるべくこれによって借受金債務及び譲渡担保権は、昭和四六年一月一九日をもって消滅し、Xは、Y2に対する関係では、本件建物の所有権を回復したものということができる。

 

そしてY2が現に本件建物につき共有持分二分の一の登記名義を有していることは当事者間に争いがないからXのY2に対する本訴請求は、理由があることとなる。(中略)

 

ところで、譲渡担保に供された物を譲渡担保権者から譲り受けた者は、その譲受当時その物が譲渡担保に供されていることについて、少なくとも悪意でない場合には有効に権利を取得すると解するのが相当であるから、悪意と認めるべき証拠のない(当審におけるY1尋間の結果によれば、Y1は当初は本件建物が譲渡担保の目的物となっていることを知っていたが、その後右の担保関係は清算されて本件建物は完全にY2の所有になったと理解していたことが認められる)Y1は、本件建物の所有権を有効に取得したものということができる。

 

そして、Xは、その後、Y2に対する債務を弁済供託した結果、譲渡担保権を消滅させたとはいうものの、Y1がそれ以前に本件建物の二分の一の共有持分権の移転登記を得ているのであるから、結局、右の限度で対抗できず、Y1に対する本訴請求は、理由がないこととなる。」

研究

1 譲渡担保とは

 民法の認める物的担保制度は、質権・抵当権のように制限物建設定の形をとるものであ るが、これによっては満足されない経済的必要性から、譲渡担保の制度が判例によって認められてきており、学説もまたこれを承認している。

 

 譲渡担保は、譲渡担保のための所有権移転という構成をとっているため、経済的実質的目と法的形式的表現とが分離し、理論的に見てその性格は不明確であり、問題も生じやすい。譲渡担保をどのように法律的構成すべきかは、譲渡担保の出発点として重要な問題であるにもかかわらず、立場が分かれており、一致していない。

 従来の通説は、譲渡担保の形式面を重視して、その法的構成をなしていたのであるが、近時では、譲渡担保の実質面を重視して、その法律的構成に努める立場が多数説になってきている。いずれにしても、譲渡担保は、実際経済の必要性から認められた制度であるから、いたずらに既存の他の制度についての考え方にとらわれるべきではなく、譲渡担保当事者の真意を重視しなければならない、ということである。

 

2 譲渡担保の法律的構成

 (1) 授権説

 この説は、譲渡担保においては、当事者に所有権移転の意思はなく、単に所有権移転の外観が存するにすぎず、その真意は、債権者に担保目的の範囲内で目的物の管理処分権限を付与することにある、と解する。そして、これは撤回を許されない授権であり、外観を信頼した第三者の保護は、民法94条2項の適用によってなされるべきであるとする。

 

(2) 二段物権変動説

 まず、設定者から担保権者へ所有権が移転し、その直後に担保権者から設定者へ担保機能を留保して、残りの機能(設定者留保権、実質的には担保権の負担が付着した所有権といえる)が戻されるものと解する。

 そして、この二段物権変動には目的物が伴うものと解し、それぞれに対抗要件が具備されるものと解している(目的物は終始設定者の下にあるが、占有改定があったもと解されるわけである)。

 

(3) 抵当権説

 この説は、設定契約により担保権者は、抵当権を、設定者は所有権を有する者と解する。譲渡担保の設定は、担保のための所有権移転であるから、真の所有権移転を企てるものではなく、抵当権設定を企てるものと解するのが、当事者の目的に最も適合し、最も端的であるとされる。

 

(4) 物権的期待権説(私見)

 この説は、譲渡担保の設定により、譲渡担保権には所有権が帰属し、設定者には物権的 期待権が帰属するものと解する。この物権的期待権とは、被担保債権の弁済によって、所有権を取得する設定者の地位をいう。

 したがって、被担保債権の弁済をなさないままでは、つまり、この期待権のままでは、設定者は所有権を取得しえないこととなる。

 そして、この期待権は、担保関係の消滅がもたらされても、弁済を受けることを目的とする債権担保という実質面から相当の期間内は消滅しないものと解される。

 なお、譲渡担保権者、設定者が、それぞれの権利取得を第三者に主張しうるための公示・対抗要件は、引渡しによって具備される。つまり、譲渡担保権者への引き渡しがなされ、ついで、設定者への引渡がなされたものと考えることにより、それぞれの公示・対抗要件が具備されることなる。

 

3 本件についての検討

(1)本件判決要旨

 Xが、Y2に対して有効な供託して、債権の弁済をしたが、Y2はXそれ以前に2分の1は建物の登記を得ているので、Xの主張は認められない。

 

(2)判旨の検討

 本件における判旨は、債務者がその債権を弁済したとしても、それ以前に担保目的物の所有権を取得し登記を取得した者は、この者が少なくとも悪意でない限り、有効に権利を取得できるものと解している。

 この点につき、物権的期待権説(私見)からすると、担保目的物を取得した第三者は、この期待権付の目的物を取得したわけであるから、債務者はこの期待権(受け戻し権)を行使して、目的物の返還をなしうることになる。

 しかし、この期待権は物権的権利であるけれど、第三者が担保目的物であること知らないで取得した場合には、取引の安全の観点から、当該期待権を行使できないものと解される。

 したがって、本件判旨は、妥当と解されよう。

 

 判例法上の譲渡担保権が、取引の安全との関係で、より強い担保になるためには、この物権的期待権が、登記簿上に記載できるようにして、第三者にも対抗できるようにすることが、大いに期待されるところである。

(注記)

 本件については2025年に成立した譲渡担保契約及び所有権留保契約については触れていない。

 この点については後日適当な時期に検討することにしたい。

 

執筆者