【第3回】やさしい民法 『人(自然人)が判断力を失うと契約はどうなるのか』
最終更新日:2026.04.28
前回は、不動産を所有できるのは誰かについて、不動産を所有できるのは「人」のみであること、そしてその「人」とは誰かについて述べてきました。
第3回では、人(自然人)が判断力を失うと契約はどうなるのかについてみていきたいと思います。人のみが不動産を所有でき、その資格を権利能力と呼ぶのだという点は、皆さんもう十分に理解されていると思います。この権利能力をはじめとして、「〇〇能力」と呼ばれる概念は他にもいくつかあります。ここでは、不動産の所有に関連して必要な「意思能力」と「行為能力」について触れておきたいと思います。
まず、「意思能力」についてです。甲不動産を所有する90歳のAは、B不動産会社から勧誘され、Bに甲不動産を売却しようとしています。ところが、Aは認知症で、売買に関して十分な判断力がない状況にありました。売買契約の成立には、Aの甲不動産を売る意思とBの甲不動産を買う意思表示が合致する必要があります(民法第522条第1項)。これは、人は自分の意思に基づいてのみ自由に契約などの法律行為を行い、自分の意思に基づいているから、その契約に拘束されるという私的自治の原則に由来します。
つまり、人が意思表示をするためには、その自分の意思を理解できていなければ意味がありません。そのため、契約を結んでも、その契約の内容を理解できない、契約が成立した結果どうなるのか理解できないという場合には、形の上ではAは売ると意思表示をしているものの、本当はA自身の意思ではないということになります。このような状況にある場合には、その人には「意思能力」はないとして、その法律行為は無効となります(民法第3条の2)。最初の例に戻ると、Aは認知症のため意思能力がないと考えられることから、仮にAとBとの間で売買契約を結んでも、この売買契約は無効となります。
次に、「行為能力」についてです。意思能力のない者(意思無能力者)が結んだ契約は無効になりますが、無効を主張して立証しなければならないのは意思無能力者です。意思無能力が立証できないと、本当は意思無能力であっても、その者には意思能力はあった、つまり、契約は有効なものとして扱われます。そこで、こうした証明の負担を考えずに、判断力が不十分な者を保護するためにその人に契約の取消権を与えるために用意された資格が「行為能力」になります。行為能力が制限されている人(制限行為能力者)は、判断力が不十分な人であり、一人では完全に有効な法律行為をすることはできないとして保護するのです。先ほどの90歳のAが、この制限行為能力者のうちの一つである成年後見の審判を家庭裁判所で受けていたとします(民法第8条)。これによりAは成年被後見人となり、Bとの売買契約がAにとって不利な契約であったと思えば、この契約を取り消すことができます(民法第9条)。この制度は、例えばAが不要となった不動産を処分したいと思ったときや、Aのために介護契約を結ぶ必要が生じたときにも大切な役割を果たします。契約の相手方Cからすると、意思無能力者であるAと契約を結んだ後で、Aから意思無能力を主張され契約が無効となる危険があることを考えると安心して契約を結ぶことができません。成年後見が開始していれば、CはAの保護者である成年後見人Dと契約を結ぶことができます。DはAの法定代理人として契約を結ぶことができるのです(民法第859条第1項)。これにより、Aが判断力を失っても、Aのために必要な契約を問題なく結ぶことができるのです。
第3回では人(自然人)が判断力を失うと契約を結んでもその契約は無効となること、その結果、その人が結ぶ必要のある契約も結べなくなるという問題があること、この問題を解決するために成年後見という制度が用意されていることに触れました。
次回は、所有者の死亡により、相続が開始するとどうなるかについて見ていきたいと思います。
