【第6回】不動産鑑定士の独り言「地域区分のさまざま」
最終更新日:2026.07.27
土地評価に用いられる「近隣地域」は、もともと不動産鑑定評価基準に規定された用語である。ところが実務の世界では、これと似た概念を示す言葉がいくつか存在する。「同一状況地域」もその一つであり、さらに他の公的な土地評価制度では、別の呼び名で同様の地域区分が用いられている。専門用語というものは、とかく解釈が難しい。ここでは少し掘り下げて整理してみたい。
用対連細則第2で定める「別記1土地評価事務処理要領」第5条(1)には、「用途的地域を地域的特性に着目して同一状況地域に区分する」とある。この「同一状況地域」という表現は、概念としては近隣地域とほぼ同類のものと考えてよい。
しかし、同要領第11条(1)では、「近隣地域(評価対象地を含む同一状況地域をいう)」とされている。
つまり同一状況地域という言葉は、近隣地域に限らず、対象地を含まない地域、いわば「類似地域」にも当てはまることになる。一方で、近隣地域には必ず評価対象地、すなわち土地評価で言えば「標準地」が存在しなければならない。
土地評価様式の上では現在も「同一状況地域」という表記が残っているが、実務の場面では、起業者やコンサルタントとの協議の中で「近隣地域」という呼称が用いられることが多いように思われる。
前回のコラムでは、近隣地域の範囲の捉え方には複数のアプローチがあることを示唆した。
評価主体によって多少のばらつきが生じるのも、ある程度はやむを得ないことであろう。
しかし一方で、どこかに基準となる明示的な地域区分が存在しないものかと考えてみると、いくつかの例が思い当たる。
いずれも一般にはあまり知られていないが、閲覧が可能なものもあるので参考までに紹介しておきたい。
① 固定資産評価基準の「状況類似地域」
地方税法第388条第1項に基づく固定資産評価基準の土地評価方法の一つ、「路線価方式」に見られる地域区分である。
この評価基準は昭和38年に告示されたものであり、状況類似地域という概念も長く用いられてきた。
現在のように図面として整備されるようになったのは、平成6年前後からではないかと思われる。
納税者意識の高まりとともに、課税内容を説明する窓口資料としての役割も担うようになったのであろう。
近年では不動産鑑定士の知見も取り入れられ、区分の精度は向上していると見られる。
ただし、この路線価方式は宅地地域に限定された評価手法である。
そのため、ここでいう「状況類似地域」は、農地地域や林地地域にも適用される鑑定評価基準の「近隣地域」とは、ややニュアンスが異なる点に留意する必要がある。
② 固定資産評価基準の「状況類似地区」
同じく地方税法第388条第1項に基づく固定資産評価基準の宅地評価方法の一つ、「その他の宅地評価法」において用いられる区分である。
路線価方式が主として市街地の宅地評価に適用されるのに対し、その他の宅地評価法は、概ね集落地における宅地評価に用いられる手法である。
いずれの場合も、地域や地区の範囲は図面として明示されており、その作成には不動産鑑定士が関わっている。固定資産税課税の基礎資料として用いられているものである。
固定資産評価は三年に一度の評価替えによって更新されるため、地域の変化も一定程度反映されている。地域区分の判断に迷ったときには、自治体の資産税担当窓口で確認してみるのも一つの方法であろう。
③ 相続税路線価における地域区分
国税庁が毎年公表する財産評価基準書の路線価図は、相続財産の評価に用いられるものである。この評価においても、公開資料には現れないが、内部的には一定の基準に基づく地域区分が存在し、「近隣地域」に相当する範囲が設定されている。
近年、土地評価の分野でも不動産鑑定士の関与が高まっており、ここで紹介した複数の地域区分手法にも、実際には不動産鑑定士が関わっている。制度は異なっていても、地域区分の地理的範囲が大きく乖離することは、次第に少なくなってきているのではないかと思われる。
もっとも、土地評価を取り巻く制度の背景には、それぞれ異なる法令や目的がある。そのため、同じ地域であっても、制度ごとに近隣地域の範囲が多少異なることがある。
実務に携わる者としては、この点が時折気になるところでもある。
このほか、公的土地評価として代表的なものに、地価公示法による地価公示と、国土利用計画法に基づく地価調査がある。これらはそれぞれ標準地価格、基準地価格として毎年公表されており、損失補償基準による土地評価においても重要な価格指標となっている。もちろん、これらの評価実務の中でも地域区分が行われ、その中に近隣地域という概念が含まれている。
著者としては、こうした様々な制度を背景とする地域区分が、将来的には一定程度整理され、互いに整合的なものとなっていくことが望ましいと考えている。その方が制度全体としての信頼性も高まるのではないだろうか。
もっとも、どの制度であっても共通して言えることがある。
それは、適切な地域区分がなければ、個別的要因の認定基準を定めることもできず、個別比準へと進むこともできないということである。土地評価において、地域区分はすべての出発点なのである。
