Column 補償コラム

【第7回】地域要因か個別的要因か

最終更新日:2026.07.27

ここ数回、同一需給圏や近隣地域といった「地域」を巡る話題が続いた。今回は少し視点を変え、土地価格形成要因そのものについて考えてみたい。土地評価実務では、ある要因を「地域要因」として捉えるべきなのか、それとも「個別的要因」として扱うべきなのか、判断に迷う場面が少なくない。

今回は、そのようなケースバイケースの価格形成要因について、最近とくに意識される二つの事例を取り上げてみたい。一つは土砂災害関連の法規制であり、もう一つは埋蔵文化財包蔵地である。

 

1)土砂災害関連――地域全体の問題か、個々の画地の問題か

例えば、土地価格比準表の「標準住宅地域」における地域要因には、「環境条件」の項目として「洪水・地すべり等の災害発生の危険性」が掲げられている。したがって、土砂災害発生の危険性を地域要因として評価すること自体は可能である。しかし一方で、個別的要因には、これに直接対応する項目が見当たらない。

環境条件という要因は、本来、地域全体の特性として整理された価格形成要因である。そのため、個別的要因として評価しようとすると、画地条件や行政的条件を援用しながら吟味することになるが、実務では、どちらで評価すべきか判然としない場面も少なくない。ここで、格差率の大小を考える前提として、土砂災害関連法規を少し整理してみたい。代表的なものとして、次の三つが挙げられる。

第一に、「土砂災害警戒区域等における土砂災害対策の推進に関する法律」である。平成13年施行の法律であり、土砂災害警戒区域と土砂災害特別警戒区域を指定している。前者はいわゆるイエローゾーン、後者はレッドゾーンとして知られており、公知性も高い。

第二に、建設省砂防課長通達による危険箇所指定である。昭和41年から運用されているもので、「土石流危険渓流」「地すべり危険箇所」「急傾斜地崩壊危険箇所」の三種類が代表的である。近年ではインターネットによる位置確認も容易になった。

第三に、いわゆる砂防三法による指定区域である。砂防三法とは、「砂防法」「地すべり等防止法」「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」を指し、それぞれ「砂防指定地」「地すべり防止区域」「急傾斜地崩壊危険区域」を定めている。なお、「急傾斜地崩壊危険箇所」と「急傾斜地崩壊危険区域」は名称が似ているが、後者は行為制限等を伴う法的規制区域であり、規制の程度はより強い。これらの区域や危険箇所は、決して特殊なものではない。山間部だけではなく、都市部の丘陵地、公園の背後地、学校裏の法面などにも見られ、複数の指定が重複している場合もある。

では、このような規制が存在する土地について、地域要因として評価するべきなのか、それとも個別的要因として評価するべきなのか。実務上は、まず近隣地域に占める規制区域の広狭に着目することになるだろう。もし、近隣地域の大部分が土砂災害リスクを抱えているのであれば、その地域全体の価格形成に影響していると考えるのが自然であり、地域要因として捉えるべきである。一方、限定的な範囲にのみ規制が及んでいるのであれば、個別的要因として評価する余地が生じる。参考までに、固定資産税に係る標準宅地の評価では、前記のイエローゾーンやレッドゾーンについて、個別的要因として画地計算に組み込まれることが比較的多いようである。近年では、一画地ごとの区域範囲や面積が詳細に公表されているため、個別格差率算定の根拠として扱いやすくなっているからだ。ちなみに、イエローゾーンでは概ね5%程度、レッドゾーンでは10%から20%程度の減価が見られることが多い。

土地評価においては、行政的条件として把握することも可能ではあるが、その場合には、不動産鑑定士の意見書によって減価率の妥当性を補強する必要があるだろう。

 

2)埋蔵文化財包蔵地――「見えない制約」の不確実性

次に、埋蔵文化財包蔵地について考えてみたい。文化財保護法第93条、第94条等による「周知の埋蔵文化財包蔵地」は、公的に把握・公表されている遺跡等である。

取得予定地そのものが包蔵地に含まれていなくても、相当程度近接している場合には、自治体から調査を求められ、工事遅延等が発生することがある。

その結果、土地価格に影響を及ぼすことも少なくない。また、未知の遺跡に遭遇した場合には、大幅な計画変更を余儀なくされる事案も、実務では決して珍しくない。遺跡の規模は、その種別によって大きく異なる。城跡であれば公園全体や一街区が含まれることもあるが、武家屋敷跡や遺物包含地、一里塚などは比較的狭い範囲にとどまる場合も多い。いずれにせよ、埋蔵文化財包蔵地を含む地域では、単なる行政的制限だけではなく、「未知の制約が将来的に顕在化するかもしれない」という不確実性そのものが、価格形成に影響している可能性を念頭に置く必要があるだろう。

今回取り上げた要因、とりわけイエローゾーンやレッドゾーンに関する格差率については、地域要因であれ個別的要因であれ、土地価格比準表に独立した項目として明示されているわけではない。

仮に地域要因の行政的条件として考慮するとしても、現行の格差率設定で十分なのか、実務上なお検討の余地があるように思われる。したがって、他の関連要因を援用して格差率を導く場合には、不動産鑑定士の意見書によって、その考え方や根拠を担保する必要があるのではないだろうか。

次回は、この「意見書」にスポットライトを当ててみたい。

執筆者

【第7回】地域要因か個別的要因か

白沢 啓(しらさわ ひとし)プロフィール

 

昭和30年秋田県に生まれる。23歳から福島県の不動産鑑定事務所に4年、仙台支店に2年勤務する中、不動産鑑定士の資格を得る。28歳で地元秋田市にて不動産鑑定業者登録。

以来40数年、主に国道バイパスや河川および高速道路用地鑑定評価、ダム関連鑑定評価等公共事業にかかる用地買収の鑑定評価業務とともに、損失補償基準にかかる土地評価業務、用地説明会参加、標準地比準評価法のシステム化を行い、令和6年第一線から退く。

趣味はサックス(E♭)、絵画、スポーツトレーニング。