Column 補償コラム

【第10回】やさしい民法『取得時効とは何か』

公開日:2026.10.16

 前回は、土地などの中から物が発見された場合について、民法上の埋蔵物の制度、文化財に関する特別な取扱い、そして土地の売買における契約不適合という3つの観点から見てきました。第10回では取得時効について取り上げます。

 時効には消滅時効と取得時効があります。消滅時効は権利者がその権利を行使せず一定期間が経過すると、その権利が消滅するという制度です。取得時効とは、一定期間継続した占有や権利の行使を基礎として、権利の取得を認める制度です。例えば、所有権の取得時効では、所有の意思をもって一定期間継続して物を占有することが必要となります。

 なぜこのような制度が設けられているかというと、1つ目の理由としては、ある事実状態が継続していると、他の人から見てその状態が真実であると考えるのが一般的であるため、その状態を保護する必要性があるからです。2つ目の理由としては、ある事実状態が真実であったとしても、その状態が真実であることを証明する資料が時間の経過とともに失われ、証明することが難しいからです。

 今回は、不動産を占有している者が真の権利者であるかが必ずしも明らかでない場合に、その者が所有権を取得することを認める所有権の取得時効を中心に取り上げます。債権及び所有権以外の財産権は一定期間行使しないことにより消滅時効にかかるのですが(民法第166条第1項及び第2項)、所有権は行使しないまま長期間が経過しても、それだけで消滅時効によって失われることはありません(民法第166条第2項の反対解釈)。ただし、無権利者である他人が土地を占有することによって取得時効が完成すると、その反射的効果として、従来の所有者は所有権を失うことになります。

 それではここで所有権の取得時効の要件についてみておきましょう。民法第162条第1項では、20年間所有の意思をもって平穏にかつ公然と他人の物を占有した者は所有権を取得するとあります。さらに第2項において、先ほどの要件に加えて、占有開始の時に善意無過失(自分に所有権があると信じ、そう信じたことに過失がない)であれば、10年間で所有権を取得することができます。取得時効の要件で問題となるのが「所有の意思」です。所有の意思とは、占有者が内心で占有物を自分の物にしてやろうと思うことではなく、客観的に所有の意思があると認められる占有である必要があります。例えば、土地を賃借している賃借人には所有の意思はないと判断されます。なぜなら、賃借人はその土地を自分の所有物としてではなく、賃貸借契約に基づいて借りた物として占有しているからです。

 次に土地の売買を例に取得時効の役割について考えていきましょう。Aは、自己の所有であるとする土地甲について、Bとの間で売買契約を締結しようとしています。Bはどのようにしたら安全に土地甲の所有権を取得できるでしょうか。まずBは土地甲の不動産登記記録を確認する必要があります。登記記録にはAが所有者として記載されていました。しかし登記記録に所有者として記載されているだけでは安心できません。日本の不動産登記には公信力はなく、対抗力しかないからです。ここで取得時効が意味を持ちます。仮にAが、土地甲の上に建物を建てるなどして、所有の意思をもって平穏かつ公然に20年以上占有していたのであれば、実際には別の人が所有者であったとしても、取得時効を援用して土地甲の所有権を取得することができます。このように、取得時効は、不動産取引の安全を支える役割も果たしています。

次に、同じA・B間の売買について、A自身の占有期間が5年間だった場合を考えてみましょう。AはCから土地甲の占有を引き継いでおり、Cはそれ以前に所有の意思をもって平穏かつ公然に15年間占有していたとします。この場合、BはAから占有を引き継ぎ、Cの15年間とAの5年間を合わせて、取得時効を主張することができます(民法第187条)。

 ここまでは、民法第162条に定める所有権の取得時効について説明してきました。所有権以外の財産権についても、民法第163条により時効取得が認められます。ただし、地役権については、民法第283条により、「継続的に行使され、かつ、外形上認識することができる」ものに限り取得時効が認められます。例えば、自分の土地(要役地)の便益のために、他人の土地(承役地)を通行する通行地役権があります。その時効取得について、判例は、原則として要役地の所有者によって承役地上に通路が開設されることを求めています。

 今回は時効制度の意義、取得時効の要件及びその果たす役割、さらに地役権の取得時効については特別な規定が設けられていることをみてきました。

 「民法の基礎」と題して10回の連載をしてきました。これまで読んでくださってありがとうございました。また機会がありましたら今回は触れられなかった題材を取り上げたいと思います。

執筆者

【第10回】やさしい民法『取得時効とは何か』

小西 飛鳥(こにし あすか)

 

平成国際大学

 

法学部 教授